2013年10月24日木曜日

橈骨神経麻痺(再々)

2009年の3月、酔っ払って作業机の前の椅子に座ったまま寝てしまい、一晩中、肘掛けで左上腕の外側を圧迫したままの姿勢で、起きたら左手が全く動かない。手首はダラリと下がったまま「おいわさん」状態で恨めしや。自力で上げることが出来ず。五指もぴくりとも動かない。当然楽器の演奏など出来ないので、たまたま暇な月だったから良かったようなものの、それでも数本のライブをキャンセルして、皆さんにはご迷惑をおかけしました。必死のリハビリを繰り返しましたが、2ヶ月は、使い物になりませんでした。

数週間で握る方向へは動くようになったものの、グーからパーにする方向の神経が全部やられて、指板の上に置いた指を剥がすことが出来ない。手首も掌側に折ることは出来ても、それを上げることが出来ない。鍵盤に指を置いたら、立ち上がるように腕ごと持ち上げないとならない。それでも楽器を弾き続けているうちに、徐々に動くようになってきたんだけど、最後まで困ったのが、「前へならえ」をして左手の平を上に上げる動き。これが出来ない。だからコントラバスを弾いていて、上行形のフレーズはなんとか弾けるんだけど、下行形のフレーズ(物理的には腕を上げていく方向)には手首が折れちゃうので弾けない。例えば「ドレミファソラシド」は弾けるけど「ドシラソファミレド」は弾けない。と言う状態が直るのには、本当に2ヶ月かかりました。

一度は、「プレイヤーを諦めなければならないのか…」と、本当に暗い気持ちになりましたが、諦めずに弾き続けているうちに動くようになり、始めて楽器を触ったときから、練習を重ねて出来るようになってきたこと、数十年の道のりを数週間で追体験しているような、逆にちょっと新鮮な気持ちになったりもして、仕事は出来ないから、本当に毎日練習して、むしろ故障する前よりも少し上手になったりして・・・

それからは、ものすごく気をつけて、椅子でうたた寝しないようにしていたのですが、、、

そんなこんなも忘れかけていた去年の7月、夜遅く仕事から帰って、大急ぎで翌日からのツアーの支度をしていて、明け方。もう数時間で出かけなきゃならない。準備を終えて、一息。メールのチェックでもしようと作業机に座ったところで意識不明。。。
30分ほどで目が醒めたのですが、「しまった!!!」と飛び起きました。
またです。左腕がピリピリとしびれています。3年前の時よりは、圧迫していた時間が短かったので、あそこまで酷くはなかったんだけど、手首はギリギリなんとか持ち上がる程度。掌を下にテーブルの上に置いた五指は殆ど上がりません。楽器を握ってみますが、コントラバスは無理。エレクトリックベースなら、なんとか素人程度に弾けるくらい。3年前、リハビリを重ねて、騙し騙しライブに復帰し始めた、発症後1ヶ月半くらいと同じ状態です。

ツアーのバンマス、坂田明さんに電話。今からトラを探すのは無理。その日は滋賀県大津に前ノリで、演奏は翌日の午後。前回の経験があるので、このくらいの状態から復帰するまでの道のりは知っています。とりあえず楽器を積んで、押さえにエレクトリックベースも積んで、ツアーに出かけました。車を運転しながらも、ずっとリハビリ。大津のホテルに着いたら、まず楽器を出して弾いてみます。朝よりはちょっと良くなっているけど、まだまだ人前で弾ける状態ではない。主催者のかたに晩ご飯をご馳走になりますが、酒も飲まず、テーブルの下でリハビリ。ホテルに帰って、寝る間も惜しんで楽器を握ります。翌朝もずっと楽器を握り続け、会場に入ってリハーサルをする頃には、なんとか弾ける状態にまで持っていきました。そして、本番。左手のフォームはデタラメだけど、なんとか音楽になりました。

その後のツアーで、日に日に快復。やはり、橈骨神経麻痺は、楽器を弾いて直すのが一番。ツアーから帰る頃には、普通に弾けるようになっていました。


そして、一昨日。少しお酒を呑んで帰ってきて、酔っ払ってソファーで寝てしまったのですが、その時の体勢が良くなかったらしい。
昨日の朝、目が覚めると、またです。左腕全体が鈍く痺れています。ただ、前の2回は椅子の肘掛けで圧迫されたのに対して、今回はソファーのクッションが相手なので、それほど症状は悪くありません。手首も上がるし、指もなんとか動く。朝ご飯を作りながら鍋を握ることも出来る。ただ、お風呂に入って頭を洗おうとしたとき、左手が思ったところに行かない。左手で頭の左側を洗おうとしているのに、何故か右手の上に乗っかってしまう。う〜〜ん・・・

ご飯を食べている場合じゃないな。楽器を握ってみます。弾けないことはない。でも、やっぱりコントロールし切れていないので、押さえようとした指が時たま弦から外れてしまう。午後から、NHK横浜のFM番組で、公開生放送なのです。行けるか・・・

すでに2回、まったくの初心者に戻ったところからの復帰を経験しているので、やり方は分かっています。頭では理想的な形を知っている。その命令の伝達経路が壊れているので、そこを繋ぐ作業。この短時間で出来るのか? 練習、練習・・・・
やはり神経がいかれているところが数カ所。そこを他の筋肉で補おうとしているので、妙なところに負担がかかります。それでも、なんとか普通に弾ける状態にはなりました。

万全ではないけれど、僕は音楽をやりに行くのであって、超絶技巧(元々そんなもの持ってませんが)を披露しに行くわけじゃない。ピアノの方とサックスの方とは初共演だけど、ボーカルはウイリアムス浩子さん、ギターは馬場孝喜さん。鬼に金棒ですよ。面白くならないわけがない。

一番乗りで会場入りしてセッティング。とにかく楽器を弾きまくります。やはり下行形のフレーズはちょっと不自由だけど、けっこう弾けてます。まだ痺れはひいてないけど、大丈夫!!!
サックスの石川周之介さん、ピアノのリン・ヘイテツさんに「初めまして」ってご挨拶して、サウンドチェック。頼りにしていた浩子さんと馬場さんが少し遅刻で心細かったけど、石川さんもリンさんも素晴らしいミュージシャンです。直に全員揃ってリハーサル。うん、行けるかも。アップテンポの曲は、ちょっと故障箇所を補うために頑張っている普段使ってない筋肉が悲鳴を上げているけど、まぁ、なんとか・・・

程なく本番。
いやぁ、素敵な音楽が出来たと思いますよ。

ほっと胸を撫で下ろしたのでした。


一晩寝て、痺れもなくなりました。楽器もまぁ、普通に弾けます。
さぁ、これからしばらくは、壊れた神経の快復と、フォームの微調整。
最近、練習時間を多めにとることができて、いい感じになってきたと思ってたところなのになぁ・・・
楽器をコントロールすることは、とっても大切だけれど、音楽はテクニックだけでやるもんじゃない。そう思って頑張ります。